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カテゴリー「小説」の記事

2010年5月 8日 (土)

ようやく坂を上り終えました…

※ここから先の文章は小説「坂の上の雲」のネタバレをかなり含みます。

楽天家たちは、そのような時代人としての体質で、前のみを見つめながらあるく。
のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲がかがやいているとすれば、
それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。

昨日ようやく、司馬遼太郎の小説、『坂の上の雲』を読み終えました。
最近読んだ司馬センセの長編小説の中では土方歳三を主役に新撰組の興亡を描いた燃えよ剣(全三巻)、竜馬がゆく(全八巻)に続いて三作目。
文章のボリュームとしては全八巻で竜馬がゆくと同程度の筈なのですが、読むことへの疲労感と、途中で挫折したくなる感は竜馬の比じゃありませんでした…特に正岡子規が三巻途中で病没してから先の、明治の日常描写が消えてひたすら「小説・日露戦争」と言える内容になってからが。

その中でも辛かったのが戦場の悲惨さが伝わりまくりな4巻~5巻の旅順要塞攻略戦、乃木&伊地知コンビがいかに無能だったか、いかに彼らの無計画さが多くの人命を失わせたかという部分については、個人的な恨みでも持っているんじゃなかろうかと言いたくなるくらい執拗でした(そしてその結果として、児玉源太郎が自ら指揮を執るために立ち上がり、一気に要塞を攻め落とす部分のカタルシスがすごいことになるんですが)。
ただ、旅順要塞が降伏を決めたとき、日露双方の兵士が抱き合って喜んだ、これでもう、人間の正気の限界を遥かに超えた血みどろな殺し合いをしなくていいんだと思うと敵も味方もなくなって、旅順市街で日露の兵士が飲み明かし、それでいてトラブルは一件も起きなかったという記述は、作中最も安堵感を感じさせてくれました。

そのあとも6~7巻にかけて内容は基本的に苦戦しまくりで勝ったのが奇蹟としか言いようのない陸戦描写、
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負け無し」
という野村克也元監督の言葉が思い返されます。負けたロシア側について見れば、その原因(腐敗した官僚主義や高級将校同士の確執)は明らかになっていますし。

そして7巻の後半からいよいよ物語は日本海海戦へと近づくのですが、ここでも海戦前の描写の文庫本半分くらい費やされます。こっちとしては日本側が海戦の歴史上後にも先にも例を見ない完全勝利だということを知っているので、はやくそっちの内容に行って、この戦いを終結に導いてほしいと思っているのですが、そういう読者の気持ちを持ち上げながら焦らすような文章力はさすがだなと。

そして日本海海戦が終わるとの後の物語はごく簡単に流し、主人公であった秋山真之、好古の晩年を描き幕を閉じました(ポーツマス条約に関する民衆の反応とかは記述なし)。

個人的に好きな登場人物は秋山好古と広瀬武夫でした。秋山真之は、正直あまり知り合いになりたくないタイプかなと(汗)
広瀬は日露戦争開戦直後にお亡くなりになってしまいますが漢詩と柔道を愛し、遊郭にも近寄らない硬派な二枚目、そんな彼が唯一愛した女性が駐在武官として派遣された、後に敵国となるロシアの貴族令嬢だったり、死因も危険な任務実施中に行方不明になった部下の行方を何度も探し、結果逃げ遅れたことが原因だったことから死後まもなく軍神として祀られ、広瀬中佐という唱歌まで作られました。youtubeにある曲はこちらをクリックしてください

NHKの年末ドラマ、今年はこの広瀬中佐戦死までやるようです。全十五話中十話を費やして小説の半分もいっていませんが、それはきっと、後半が上記のようにひたすら戦争パートで一般受けが悪いことが分かり切っているからなんだろうなと。秋山真之の出番も激減しますし。

そのNHKドラマですが、正岡子規の妹がなんであんなヒロイン扱いなんだとか、小説でろくに出番がなかった夏目漱石の出番多すぎだろとか(漱石と子規は友人だったようですが秋山真之とは“もうちょっとしたら夏目も来るぞ”と子規が言っても“いや、別にあんま接点なかったし”と言ってさっさと帰っちゃう程度の間柄)、夏目漱石の出番に尺を割いたおかげで小説でわりと出番のあった高浜虚子の出番カットされまくりだよねとかありますが、全体的に良い出来だと思います。

四話の日清戦争以外は

・日本に戦況が有利に傾くきっかけになった黄海海戦
・その後連合艦隊長官の伊東祐亨が清国海軍トップに丁汝昌にあてた、真心と友情にあふれた日本への亡命を勧める手紙
・小説全編を通して何度も書かれている、当時の日本はいじましいくらいに国際規約の優等生であろうとし、略奪などの一切を厳禁していたという記述

それらを全てなかったことにして、小説に全くなかった日本陸軍による中国での略奪シーンとか長々と入れてますから。
歴史についてどういう見方をするか、どういう考え方をするかというのは個人の自由だと思います。司馬センセの書いた内容についてもかなり議論はあるところですし(一番大きな議論は実際の乃木大将が有能だったか無能だったか
ただ、このドラマが『NHKオリジナル 日露戦争物語』ではなく、『司馬遼太郎原作・坂の上の雲』である以上、そこで作者の言わんとしていた事象に対しては忠実であるべきだと思います。とりあえず、旅順で日露の兵士が抱き合って喜んだという部分は外さないでほしいなと。

次は何を読みましょうかね…久しぶりに吉川英治系統に手を出してみるか、それともこれまで1ページも読んだことがなく内容の系統も全く知らない村上春樹あたりを読んでみるか…