広州でなく杭州③
※今回の文章は、後半で中国の歴史観とかの負の部分に思い切り触れています。そのためこれまでのブログ文章の中では一番、こちらも口調がキツくなっています。あらかじめご了承ください。
武松のお墓にひとしきりツッコミを入れたあと、自分ら二人は岳飛という将軍を祀った岳王廟という所に向かいました。もっとも武松の墓については、明日のジョーで力石徹が死んだとき、リアルで葬式をあげた国の人間に言われたくないと言われるかもしれませんが。
閑話休題して岳飛(1103~1141)は南宋の将軍。北方異民族の王朝であり中国北方を手中にした金王朝に対して最後まで徹底抗戦を唱えていた人物です。ここで岳飛と岳王廟に触れる前に、宋についてちょっと解説。
宋という王朝は中国の歴代王朝の中でも非常に特殊な王朝でした。武よりも文に基を起き、初代皇帝の遺訓により言論の結果による死刑を禁じ(他は言葉尻一つで首を刎ねられるのはザラ)、自分達が乗っ取った後周王朝の王族を代々手厚く保護しました(他は九親等くらいまで皆殺しがデフォ)。
また、そんな気風の元で磁器(当時作られた青磁の色は『台風一過の空の色』と言われ現代でも再現不能)や絵画などの文化も非常に発達し、首都開封は夜通し営業している酒場などで栄えました。そんなこんなで、個人的に一番好きな時代の一つでもあります。
しかしその反面、軍事は非常に弱く、和平政策として隣接する北方異民族の王朝である遼に毎年大量の銀やら絹布やらを下賜することでやりくりしていました。なんかこう書くと、現代日本と妙にダブります。
それでも遼が健在なうちは良かったのですが、遼が女真族の金朝に滅ぼされると金朝は宋にも侵入、追いやられた宋の皇帝は残った南の地に遷都し、南宋となります。それが、岳飛の生きた南宋の時代です。
廟内にあった岳飛(岳王)の像。銅像の下半身が入場客に触られすぎたせいでテカっているのについては触れない方向で。
この廟、一人の人間を祀った廟としてはかなり大きいです。岳飛に対する人々の崇拝も三国志の関羽に次ぐと言ってもいいかもしれません。それは何故かというと、彼の悲劇的な最期にあります。
岳飛には秦檜という政敵がいました。主戦論の岳飛に対し金朝との和議を主張する秦檜、やがて二人の確執は深まり、秦檜は岳飛と息子の岳雲、忠臣の張憲らに無実の罪をかぶせて謀殺、金朝に対して中国王朝史上初の『臣従』という形で和議を結びました。
それまで中国の王朝は、どんなに自分達に経済的に不利な和議であっても、形の上では中国が兄であったり主君であったり、とりあえず自分達が上でした。その前例を破り、自分達こそが世界の中心であるという中華思想も打ち砕かれた、そのことが岳飛の英雄性を高めると同時に、秦檜を中国史上稀に見る悪役、奸臣の代表例としたのです。そしてその結果が下の写真です。
秦檜、彼の夫人、その他岳飛父子謀殺に共謀した二人の計四人の像が檻に入れられ、上半身裸で後ろでに縛られてうつむいています。参拝した人はこの銅像をバシバシと平手打ちしてから、目の前にある岳飛(とその息子)の墓(下写真)に手を合わせるのです。
昔は像の脇に鞭が置かれていて、それで叩いたり像に唾を吐いてからお墓に参拝していたそうです。さすがに外国人も来る場所でそれは外面が悪いと気づいたのか鞭は撤去され、壁には“唾吐くな”のレリーフが貼ってありましたが。
ビジネスマナー以外の他国の風習についてとやかく言うのはあまり好きではないのですが、はっきり言ってこれ、事前情報持っていてもドン引きします。誰がどう考えてもやりすぎです。
岳飛が死んだのは870年近く前、それから王朝が三つ代わり、中央政府が二度変わっています。それでこれです。時々“アジアで共通の歴史認識を”とか言う人がいますが、断言します。ムリです。どう考えても人物評価でまとまるワケがありません。
だから歴史については相互不干渉で永遠に棚上げして、せいぜい雑談程度にとどめておく、これが摩擦や軋轢を減らすための、唯一最大の方法だと考えています。
杭州コラムは次で最後です。ラストはとりあえず、普通にまとめる予定です。
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